高安動脈炎

高安動脈炎とは

高安動脈炎では、大動脈や大動脈弁や冠動脈や手や首、腹部内臓の血管に原因不明の炎症がおこります。そのために血管の外壁が分厚くなり血の流れる部分が狭窄したり閉塞したりするか、逆に血管の外壁が薄くなることによって拡張してしまうこともあります。炎症がおこった血管によって症状はさまざまですが、一般的に風邪のような症状から、手足が疲れやすくなり、血管の損傷によって重篤になると心臓や脳など各種臓器が損傷してしまうこともある難病で、厚生労働省による特定疾患に指定されています。心臓弁膜症が予後に最も影響すると言われています。心筋梗塞は突然死の原因になります。
1908年に我が国の眼科医の高安右人(たかやすみきと)博士が初めて報告したことから世界的にも高安動脈炎と呼ばれていますが、上肢の血管の炎症から脈に触れない症例が多く、かつては「脈なし病」ともよばれてたものです。
患者さんは女性が9割程度で、とくに発症年齢は15~35歳と比較的若い女性に多い傾向があります。ただし最近は男性の発症者も増加してきているという報告があります。
現在、我が国ではこの病気の患者さんは6000人程度で10万人に5人弱と非常に稀ですが、毎年200~300人程度の方が新しく発症しているという統計があります。

高安動脈炎の原因

原因は現在のところはっきりとわかっていません。ただ、さまざまな研究から、免疫異常が関係しているのではないかと言われています。また一部の患者さんには遺伝的な要因が作用していることが発見されています。しかし家族間での発症例は非常に稀であることから、突発的に遺伝子に異常がおこることによるのではないかと考えられています。

高安動脈炎の症状

初期症状としては、炎症をおこしている原因物質が、血管を通して全身にまわってしまい、発熱や食欲不振、全身のけだるさなど風邪のような症状がおこります。また体重の減少も見られます。
病状が進むと、炎症をおこした血管の外壁が肥大し、それによって血液の通り道が細くなり、ついには塞がってしまったり、逆に外壁が細くなることによって通り道が拡張してしまったりして、血液がうまく流れなくなり、障害がおこった部分によってさまざまな症状があらわれるようになります。

頸部から頭の血管障害による症状

頸の痛みや歯痛、難聴や耳鳴り、視力低下など口や耳、目の症状から、脳にかかわりのあるものとして、めまいや立ちくらみなど、ひどい場合は失神もあります。さらに末端の血管に障害がおこると脳梗塞をおこすこともあります。

上肢への血管の障害による症状

上肢に栄養を送る血管に障害がおこることによって、脈が触れないという症状が多く出たことから以前は「脈なし病」ともよばれていました。また腕が冷たい、疲れやすい、物をよく落とすといった症状もあらわれます。

心臓や腎臓といった臓器周辺の血管の障害による症状

3分の1ぐらいの患者さんには、心臓大動脈の弁に障害がおこり、心臓弁膜症をおこすことが知られています。弁膜症の程度によっては予後の心臓の働きにも影響がでることがあります。手術も行われることがあり、大動脈弁置換や大動脈弁輪拡張症および弓部大動脈瘤に進展し、ベントールや弓部置換術を必要とすることもあります。また腎臓付近で障害がおこると腎機能が低下し、カテーテルによる血管拡張術を行う。

下肢の血管の障害による症状

下肢に栄養を送る血管に障害がおこることによって、足が冷たい、足がすぐ疲れる、歩行困難などの症状が出ることもあります。

このように、障害の部位によってさまざまな症状があらわれます。また、全身の血管の障害によって、若い人でも高血圧症がでることもあります。

高安動脈炎の治療法

治療は血管の炎症を抑える薬物療法が中心になります。一般的には、副腎皮質ステロイド薬が有効で、その他に血液の流れをよくする血管拡張薬や血栓ができにくくする抗血栓薬などを使用します。ステロイド薬は連続使用による副作用がありますので、経過を診ながら徐々に薬を減らしていきます。
しかし、なかなかステロイド薬で効果を得られない患者さんには、免疫抑制剤などを使用することになります。
なお、近年の研究で高安動脈炎の患者さんでは、免疫反応に大きく関連するIL-6(インターロイキン-6)というサイトカイン(細胞から分泌されるたんぱく質の一種)の分泌量が病状にあわせて上昇することがわかり、IL-6阻害薬で関節リウマチなどの薬として使用されているトシリズマブが有効で2017年には治療薬として承認されており、ステロイド薬が効きにくい患者さんに使用します。なお、トシリズマブには副作用もあることが知られており、使用は慎重に行います。
血管の炎症が治まった後、各種臓器や四肢などに影響がでてしまった場合は、症状に応じてさまざまな内科的治療を行います。
ただし、血管が強く閉塞しているなどで、日常生活に大きな影響が出ている方には、血管内治療を検討する。手術に至る方は全体の2割程度といわれています。
ステロイド薬が効果的であること、新しい治療薬が開発されたこと、画像診断技術や治療技術が向上したことなどで、現在では多くの患者さんの予後は以前と比べて良好になりました。
しかし、心臓に弁膜症や高血圧症や腎機能障害などを起こしてしまった患者さんについては、予後も厳重な管理を続ける必要があります。手術時期を失わないようにすることが重要です。生命予後を決定することが多いです。
また、全体の7割程度の方が再発するという統計もあり、治療終了後も定期的な受診が必要となります。

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